いじめかもしれない。
いや、いじっているだけかもしれない。
学校でのいじめは、おとなから見ると境目があいまいでわかりにくいことがあります。
そして、そんなふうにあいまいな気持ちだと指導しようと思っても一歩ふみこめません。
でも、そこで指導できなかったことで、のちのち大きな問題へつながってしまうことになってしまっては取り返しがつきません。
今回はおもに教員などたくさんの子どもを見守る立場のおとなへ向けて、いじめかどうかわからないときに見分けるための一番わかりやすいポイントと対応方法を紹介します。
この記事を書いた人
元中学校教員。
公立小中学校、私立学校、国立大学附属中学校で勤務した経験あり。
実習助手、副担任、担任、学校事務など学校現場でいろいろな職種を経験。
いじめかどうか、指導側が見分けるときの重要なポイントは3つです。
- 保護者のまえで同じことができるか
- 自分がいじめられている子どもの親だったら許せるか
- いじめられている側の子どもが苦痛を感じていないか
いじめかどうか判断する3つのポイント
保護者のまえで同じことができるか
保護者というのはこの場合、2つの意味があります。
- いじめられている(ように見える)子どもの保護者
- いじめている(ように見える)子どもの保護者
いじめられている(ように見える)子どもの保護者のまえで同じことができるか
いじめられているように見える子どもの保護者のまえで同じことができるか、できないなら「いじめ」ということです。
なぜなら、その相手のことを心から大切に思っている人の前ではその人を傷つけることはできないからです。
たとえば、私が担任していたクラスではこのようなことがありました。
- ある生徒の筆箱が、教室の棚のうしろから出てくる
- 「◯◯は△△のことが好き」と何度もしつこくからかう
- ある生徒のメガネが、その子の身長では届かないところに置かれている
ものを取って隠してみたり、からかってみたり。
いじめている側はちょっとしたいたずら心だったとしても、これらを相手の保護者のまえでもできるでしょうか?
たとえわずかな悪意だったとしても、いじめている方は悪いことだと自覚しています。
だからこそ、相手を大切に思っている保護者のまえでは、その子を傷つけるようなことはできません。
授業参観のときに保護者の目の前でいじめをしている子は見たことがありません。
最近問題になっている「あだ名禁止」についても同じことです。
悪意をもってつけられたあだ名と、親しみからつけられるニックネームでは大きく意味がちがいます。
悪意のあるあだ名で、その子の保護者のまえで呼べるでしょうか。
相手の保護者のまえでできないことは、すべていじめだと判断して対策をとるべきです。
いじめている(ように見える)子どもの保護者のまえで同じことができるか
そして、いじめる側もまた、自分の保護者のまえではひどい行動はとりません。
自分のことを大切に思っている保護者が悲しむ顔をみたくないし何より恥ずかしい。
そんな気持ちは少なからず多くの人が持っているものだとおもいます。
いじめかどうか疑わしい行動があったときには、同じことを自分の保護者のまえでできるのか、教員自身の心やいじめている子の心に問いただしてみてください。
自分がいじめられている子どもの保護者だったら許せるか
子どもがいない教員でも、想像してみることはできるはずです。
子どもがいる人ならなおさら想像することはたやすいでしょう。
大切な大切な我が子が同じことをされていたら許せるのか。
許せないなら、それはなぜですか?
いじめによって、いじめられている子どもが傷ついているからです。
そんな許せないことを目の前の子どもが受けていると思ったら、一刻もはやく手を打たないといけないという気持ちになりますよね。
もしくはいじめているのが自分の子どもだったら許せるでしょうか?
我が子がほかの人を傷つけていることほど認めたくないことはないはずです!
どちらにしても、すこしでも許せないと思ったら行動すべきです。
いじめられている側の子どもがどう感じているか
これは文部科学省がだしている「いじめの定義」と同じです。
いちばん大事なのは、いじめを受けている子どもが苦痛を感じているかどうかです。
でも、教員になってみて、これはとてもわかりにくくいじめを見分けるポイントとしては難しいと感じました。
なぜなら、子どもは大人にバレたことで事態がもっと悪くなってしまうのではないかと恐れて本心を話せないことが多いからです。
「先生に本当のことを言ったらあとからもっといじめられる」
そう思うくらいひどいいじめを受けているときほど、本心を打ちあけることは難しいでしょう。
大人になったみなさんには考えてみてほしいです。
つらくて悩んでいることをまわりの大人に相談できたことはどれくらいありますか?
友人には話せても、親や先生に話せなかったことってたくさんあると思います。
ではどうすれば子どもの本心にすこしでもができるのでしょうか?
大事なのは、1回、2回聞きとりをしただけで本人の気持ちを聞いた気にならないことです。
その子の表情やほかの教員のまえでの様子、保護者からの話など、たくさん情報をもらいながら注意深く時間をかけて本心を探っていかなければいけません。
子どもから「つらい」と打ちあけられたら
そしてもし、子どもからの訴えがあったなら。
それはその子が相当つらいというサインです。
もう一度言います。
子どもから、「つらい」「いやだ」という訴えがあるときは、相当苦痛を感じているときです。
実際はつらくても「大丈夫です」と口で言ってしまう方が多いのです…。
そして、本心を打ち明けられた大人がなんとかしてくれるのではないかと信じて期待しているのです。
これは私自身がいじめられたときにわかったことでもありました。
ほんとうのことを言って、いじめが悪化するほうがよっぽど怖い!
そもそも先生に言って解決しても、その場限りでどうせまた後でいじめられる。
だから黙っておこう……
私の場合は数ヶ月で終わったのでその後穏やかな生活が戻ってきたのですが、それでも当時の苦しい気持ちははっきり覚えています。
でも周りのおとなに相談する気にはなりませんでした。
担任の先生に言っても何も解決してくれる気がしなかったからです。
そして親にはいじめられているとバレると悲しませると思って言えませんでした。
いじめられている子どもの気持ちというのは本当に見えにくいです。
だからこそ、すこしでも子どもから発せられた言葉があれば、大人はしっかり耳を傾けなければいけません。
いじめだと感じたときに取るべき対応
ここからはいじめだと感じたときに取るべき対応について紹介していきます。
- ちいさいことでも大きくとりあげてうやむやにしない
- 保護者のまえでも同じことができるのか、問いただす
- いじめられた子も、いじめている子も大切な仲間だということを伝える
- いじめられた子の様子を見守り、定期的に話をする時間をもつ
ちいさいことでも大きくとりあげてうやむやにしない
どんなちいさいことでも、うやむやにしないことが一番たいせつです。
たとえば教室に落書きがあったとか、誰かの持ち物がなくなったとか。
教室にあるものが壊れたままになっているというのもひとつのサインだと思っています。
ちょっとしたことだと思っていたのに本気で怒られると、最初は反発されるかもしれません。
でもちょっとでも人の心を傷つけることは許さないし見過ごさないという姿勢をつらぬけば、次第に子どもたちのなかにもそういう雰囲気が広がっていきます。
そうすると、すこしでもあやしいことがあったときに子どもたちがしっかり見ていて報告してくれるようになります。
「あの子がしんどそう」
「◯◯くんがこんなひどいことを言っていた」
そうなってくると、いじめをしようと思うほうが居心地が悪くなってきます。
ちいさなこともあえて大きく取りあげて一つ一つ向き合っていけば、小さな悪意も許さない、いじめを許さないという雰囲気づくりにつながっていきます。
保護者のまえでも同じことができるのか、問いただす
いじめだと思われることがあったときには、徹底的にいじめている子どもに問いただします。
相手の保護者のまえで同じことができる?
今から相手の保護者を呼んでくるから自分のしたことを説明してくれる?
こう言って問いただすと、何も言えなくなります。
自分のしたことが悪いことだとわかっているからです。
いじめられた子も、いじめている子も大切な仲間だということを伝える
私が担任していたクラスで何か問題があったときに、くりかえし子どもたちに伝えていたのはこれでした。
いじめられている子も、いじめている子も、どちらも私にとっては大切なクラスの子どもたち。
人を傷つけることもしないでほしいし、自分を傷つけることもしないでほしい。
あなたたちは私にとって大切な人たちだから、傷つけないでほしい。
そして大切な人にいじめをしてほしくない。
いじめをしている子も心に大きな穴が空いていることがほとんどです。
あなたが大切だからいじめをしないでほしい、というのはくりかえし伝えるようにしていました。
いじめられた子の様子を見守り、定期的に話をする時間をもつ
いじめられた子は注意深く見守っていく必要があります。
ですが、自分だけがその子の頼りになる大人でいる必要はありません。
学級担任、副担任、学年主任、養護教諭、保護者、中学校以上の場合は部活動の顧問など、子どものまわりにはたくさんの大人がいます。
またスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門家の力を借りることも大きな助けになります。
どれくらい時間がたてば大丈夫、という保障はないですが、問題がおきてから最低でも3ヶ月くらいはたくさんの大人の目で注意深く見ていく必要があるのではないかと思います。
おとなの目にふれている時点で危険信号
ここまで、いじめを見分けるポイントとその対応について紹介してきました。
ですが、おとなの目にふれて「いじめかどうか?」と言っている時点でほとんどはいじめだと思ったほうがいいです。
なぜなら、いじめのほとんどはおとなの目が届かないところで行われているからです。
ですから、おとなから見て「これはいじめかな?」と言っている時点でかなり危険信号!!
それは氷山の一角で、子どもにとっては相当つらい状況になっていることが多いので、すぐに対応する必要があります。
子どもからのSOSを待っていては手遅れになることも。
その子の保護者のまえで同じことができるか、もし自分が親だったら許せるのか。
そしてもし自分がいじめている子の親だったらどう思うのか。
さきほど紹介したポイントに照らし合わせて考えてみて、すぐに行動にうつしてみてください。
「目の前のあなたが大切な存在なんだ」というメッセージを伝え続ければ、きっと子どもの心に届くはずです。
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